伊集院静の「なぎさホテル」を読んだ。
久しぶりに伊集院静を読んでみようと思ったのは、作家の死を報じるネット記事に書き込まれたコメントを読んだからだ。
その人(女性)は、父親を亡くしたそうだ。サイン会で伊集院静に会ったとき、父親に会いたいのに一回も夢に現れてくれないと言ったそうだ。それに対する作家の答えは、
「あなたは女性だろ。お父さんは夢に出るとあなたが泣いてしまうと思って夢に出ないんだよ。時が解決してくれるからね」
だったそうだ。
あなたを泣かせてしまうから夢に出ないんだよ、なんてなかなか言えないと思った。
それで久しぶりに著作を読んでみようと思った。
松任谷由実の追悼文を読んだ。
伊集院静は彼女のコンサートを演出したことがあるらしい。だが「袂を分つ」ことになったようだ。
回想によると、若き日の伊集院静は「絶対直木賞を取る」と口癖のように繰り返していたという。
松任谷由実は意地悪だな、そう思った。
伊集院静はのちに紫綬褒章をもらうのだが、当初、紫綬褒章を断ろうと思ったというエピソードがある。
断ろうと思ったのだが、妻の篠ひろ子が伊集院の母にこっそり相談したところ紫綬褒章を断るなんてとんでもないということになり、それで紫綬褒章を受けたということになっている。
紫綬褒章を断ろうと思っていた男が直木賞は欲しくて欲しくてたまらなかった、それじゃカッコがつかない。
松任谷由実だって、分かっているはずだ。
追悼文ということになっているが、追悼ではない。
「袂を分つ」ことになった過去を忘れていないのだ。
何があったかはもちろん分からないが、カッコをつけたい男とプライドを傷つけられた女、そんな過去があったと勝手に推理しておく。