恋は遠い日の花火じゃない、そんな昔のCMを思い出しました。
テレビで「ローマの休日」が放映されていたので、何気なく見始めたら引き込まれて最後まで見てしまいました。
レンタルビデオで学生時代見たときは、ありふれた恋のお話だと思ってそれほど感銘しなかったのですが、何十年ぶりに見たそれは、以前より輝いて見えました。
遠い日の花火だから、美しさだけがいつまでも記憶に残る。
まるで映画の主人公が歳をとって、昔の一日だけの恋を思い出すのを一緒に見ているような、そんな感覚になりました。
アン女王を演じたオードリーヘップバーンは1993年に63歳で、新聞記者のブラッドレーを演じたグレゴリーペックは2003年に87歳で亡くなっています。
今は亡き二人の若き日の恋を追体験しているかのような、不思議な、切ない気持ちです。
それは「ローマの休日」という1本の映画にすぎないのですが、繰り返し世界中で見られているうちに、フィクションを越えて、多くの人に共通するひとつの小さな真実になってしまったかのような、現実と虚構が入り混じってしまったかのような気分になりました。
モノクロームで、小さなバイクと車、やたらに長い紙幣が登場する世界だから、よけいに現実なのか作り物なのか、境界があいまいになったのかもしれません。
オードリーヘップバーンは癌を患って亡くなったようです。
その際、手術を行った病院は「悪い腫瘍はすべて切除し、転移もなかったと」と発表したのにも関わらず、マスコミが手術室の誰かを買収し「彼女の癌は手の施しようがなく、あと3ヵ月の命」だとセンセーショナルに報じたそうです。
スクープを狙った記者との恋を演じたオードリーヘップバーンは、現実の世界でも同じような立場に立たされるのです。
ですが、現実は甘い恋などではなく、残酷な事実しかありません。
そんなことをウィキベテアで知ると、ますます切ない気分になって、ラストシーンで記者の前に立ったオードリーヘップバーンの、悲しみと強さにあふれた視線が思い出されるのです。